「生き方を自分で決める」　　　　　　　　　　　　　　　　ヒントを得る2拠点サービス

「 “行きつけの田舎”と“拡張家族”がある暮らしをご提供したい。」と話すのは、子育て家族向けの２拠点生活サブスクサービス「Co-Sato（コサト）」を運営する小菅勇太郎さん。辰野町の地域おこし協力隊を勤める小菅さんは、築100年を超える古民家を使って、2022年春にサービスをスタートしました。

サービスを通して広めたいのは“周りに流されずに、それぞれの理想の生き方を追求して、自分で生き方を決める人生観”。これまでの幸せの定義がゆらぎ、多様性が認められてきた現代において、自分で自分の生き方を決める人生観は、人生の拠り所となるかもしれません。

「Co-Sato」で得られる体験やコミュニティ、そして小菅さんがサービスに行き着いた背景などを伺いました。

■好奇心のおもむくままに遊べる体験

Co-Satoが提供する拠点は、自然豊かな川島（かわしま）地区の古民家。サービスの利用は、都会に住む子育て家族が多いのだそう。週末や長期休みの時には、最大4家族が古民家に一緒に宿泊し、生活を共にします。

普段は都会に住んでいる子どもたちは、親が一緒にいる安心感を持ちながら、普段は交流が持てないような年齢の大人やルーツの異なる友達、スタッフの大学生などと交流します。田舎の自然のなか、思いっきり遊ぶことで、いろんな刺激を吸収できます。

子どもたちの保護者からお話を伺うと、子どもたちには良い影響がもたらされているそう。例えば「東京の公園では子ども同士が遊んでも仲良くはならなかったけれど、Co-Satoの暮らしでは仲良くなれた。」そんな声が多いそうです。

「言葉で表すのは難しいのですが、自然の中では自分を出しやすい、自分らしくありやすいのかな、というのは感じています。自分を解放できる環境ですね」と小菅さん。

田舎では川で遊んだり、農作業をしたり、花火をしたり、地域の祭りに参加したり、田んぼで泥だらけになったりと、都会ではできないことで遊べます。地域の協力者とつながるCo-Satoだからこそ、地域を舞台に思いっきり遊ぶことができます。『うちの子はインドア派だと思っていたのに、川であんなに楽しそうに遊ぶなんて……。』そんな感想も保護者からありました。知らなかった子どもの一面や、成長を発見できる機会にもなるようです。

小菅さんは「子どもたちは、満面の笑みを浮かべてくれます。僕もつられて、笑顔になってしまうほど。それだけ、本当にやりたいことを、思うがままにできる場所が楽しいのでしょう。この暮らしを通して、好奇心のおもむくままに、やりたいことを試す体験をしてほしいですね。」と話します。

■否定が少ない環境で得られる、人生のヒント

このサービスで提供したいのは“行きつけの田舎”とコミュニティとしての“拡張家族”。そして広めたいのは、“周りに流されずに、それぞれの理想の生き方を追求して、自分で生き方を決める人生観”です。

「どのように暮らそうか考えたときに、住む場所は重要ポイントですよね。例えば、東京暮らしも、地方暮らしも、2拠点生活も、選択肢として挙げられるのが理想だと思います。広い選択肢から、自分達が理想とする生き方を選べるようになってほしいんです。僕はこのなかでは２拠点生活を気に入っているので、２拠点生活を拡充させる役割を担いたいと考えました。」と小菅さん。

辰野町＝“行きつけの田舎”で出会えるのは、コミュニティ＝“拡張家族”。そしてコミュニティを通して触れられるのは、多種多様な価値観です。

「それらの価値観が、子どもたちの世界が広がるキッカケになってほしいですね。そして今後、大人に近づく時や大人になった時に、自分で幸せや行き方を決める材料になりえたらいいなと考えています。」

気をつけているのは、できるだけ子どもたちが自由に過ごせる環境をつくること。具体的には、興味を持ったことに挑戦できるような環境、そして否定されることが少ない環境です。

「田舎では、遊び場は必然的に自然の中になります。例えば川遊びでは、親御さんも心配ですよね。『これはやっちゃいけない。危ない。』と止めたくなると思います。

しかし、スタッフとしても、安全な場所を選び、できるだけ安全策を取って、子どもたちの興味のおもむくままに遊んでもらえるように配慮しています。学生スタッフが常につきっきりで子どもさんに付くことで、親御さんに安心して任せてもらえるように対応しています。」

古民家があるのは、田園風景が残る「川島地区」。全国的に、手入れが行き届かない田舎も多いものの、「川島地区」は、地域の方によって林道整備や草刈りがされていて、美しい景観が維持されています。

「川島地区に初めて来た時『景色がいいですね』と感想を述べたのですが、それに対する地域の方の言葉が印象に残っています。『この美しい景色は当たり前のものじゃない。俺達が代々、守り続けてきた景色なんだ。』それがとてもカッコよかった。

ここに来たからこそ、景色も大きな財産であることが分かりました。後世に引き継いでいきたいですよね。」と小菅さん。

■自分の生き方を、自分で決めることの大事さ

Co-Satoに至るには、小菅さんの子ども時代からの経験が背景にあります。小菅さんは幼少期から、海外や日本の田舎など、いろんなところで過ごしてきました。そこには、家族や友人たちと過ごす時間を大切にする生活がありましたが、東京に移り住んだ途端、生活リズムが変化しました。学校と部活と塾の往復だったり、父親も仕事が忙しくなったりで、家族の時間が極端に少なくなったそうです。

「都会の生活も刺激があって楽しい。都会も田舎も、僕はどちらも好きです。そして、どちらがいいとかではなく、どちらにもいいところはあります。

それを前提に『自分が理想とする生き方ができているのか』を自分自身に問い直したら、それはできていないのかもしれないと考えました。特に東京は、どうしても自分の意志よりも、社会の流れみたいなものが強く、自分に目を向けられる余裕を持ちづらいと感じました。

一方で、家族や友人と過ごす時間に重点を置いていた生活で得ていた、幸福感を思い出しました。」と小菅さん。

この課題観から、自分にとっての“理想の生き方”を考えるようになります。

“理想の生き方”を考える材料になったのは、子ども時代からいろんなところで過ごした経験や、いろんな人との出会い。そして、学生時代に辰野町へ訪問したことが、“理想の生き方”へと舵を切る、大きなキッカケとなりました。

それは、小菅さんが2020年に立ち上げた、全国の地域活性化に取り組む「地域活性化コミュニティー「Rural Labo（るーらるらぼ）」の活動中。辰野町と東京で2拠点生活をしている方に出会ったことです。

「2拠点生活をしている方に出会って、その生活に惹かれました。そこから2拠点生活をベースとする事業を広げていきたいと思ったんです。辰野町の古民家を借りて、辰野町と東京都の２拠点生活がスタートしました。」と小菅さん。

小菅さんの“理想の生き方”にとっての大事なポイントは「サードプレイスとして、一緒に過ごしたいと思えるコミュニティを持つこと」。それが自然豊かな環境にあることによって、生活のバランスが良くなることを感じました。そして、自身の人生観として根底にあるのは、周りに流されずに、それぞれの理想の生き方を追求して、自分で自分の生き方を決めること。それらを叶え、広める事業がCo-Satoです。

「楽しかった子どもの頃の思い出が、大人になっていく段階で、僕の“理想の生き方”を形づくるものになりました。“理想の生き方”を叶えたくて事業を作っている部分もあります。」

■社会全体の、当たり前の選択肢へ

辰野町の古民家は1拠点目。サービスをブラッシュアップしながら、今後はサービスを広げていきます。目標としては2023年度中に10拠点、今後3年で150拠点が目標です。地方の空き家問題や地域活性などとも絡めていきます。

「Co-Satoが提案する暮らしを、社会全体の当たり前の選択肢にしていきたいですね。今後は、全国に拠点を広げていきたいと考えています。

僕には子どもはいませんので、今はサービス対象者には当てはまりません。しかし『未来の僕が使っていたらいいだろうな』と思えるサービスまで、突き詰めていきたいです。」