スタートしたばかりの加工屋　　　　　　　　　　　　未来へ信用を積み重ねていく

金属加工を手掛ける職人が多い辰野町に、新たな企業が誕生しました。2024年5月に設立したばかりの阿部工業です。

伊那富地区の山を背に立つ工場内で手掛けているのは、金属加工（NC旋盤、マシニング）や、樹脂加工、治具製作。「ものづくりの面白さは、自分の努力が製品として形になることですね。」と話す、代表の阿部慎太郎さん。これまでに培った経験や技術、人との関係性をもとに事業を立ち上げた阿部さんに、ものづくりの面白さや、今後の展望などについて伺いました。

︎経験をもとに、精度や仕上がりを求める

阿部工業で手掛けるのは、金属加工のNC旋盤とマシニング、樹脂加工、および治具製作。設備としては、NC旋盤（オークマ GENOSL250 φ280 L200 回転センタ）とマシニングセンタ（ブラザー TC-S2A 480×360×270 4軸インデックス）を備えています。

試作案件や、1個からの小ロット生産にも対応しています。現在携わっているのは、医療関連機器の部品や、食品メーカーの梱包袋用ラッピング機器の部品など。そのほか工場などで、加工や組み立ての際に使用される補助工具である「治具」の製作もおこなっています。

「設計図から実際の部品を製造するプロセスでは、過去の経験が大きな助けとなります。特に寸法精度や加工手順における判断力が問われる場面では、これまで培った知識や技術を活かします。」

ただ“形にする”のではなく、精度の良い仕上がりが重要。限られたリソースの中で、いかに高いパフォーマンスを実現させるかということも、技術者としての腕の見せ所です。

現在携わっている医療機器や食品関連機器部品の製造には、高い品質要求があります。特に重要なのは、切削加工後の余分な突起物である「バリ」の排除です。バリがあると、製品の不具合に直結してしまいます。

「ステンレス鋼・チタン合金・超耐熱合金など、難削材の対応もいたしますし、開発部品などの高度な技術が必要な案件も承ります。協力会社との5軸加工、研磨、ワイヤーカットなど幅広い加工もいたしますので、まずはお声がけください。」と阿部さん。

︎目指していた、事業の立ち上げに挑戦

阿部さんは、7月まで町外の加工業の企業に在籍していました。それまで約18年間、２つの会社において、NC旋盤とマシニングの経験を積んできました。若い頃から自身の事業の立ち上げを目指していました。

開業地として選んだのは、辰野町。理想的な工場となる賃貸物件が見つかったためです。

「前職で知り合った諸先輩方の助けを受けて、事業をスタートできたことに感謝しています。今後も感謝の気持ちを大切にしながら、一生懸命頑張っていきたいです。」

︎納期が短い案件ニーズにも応える

現在の取引先は、箕輪町、岡谷市、下諏訪町、さらには埼玉県の企業。まだ辰野町のお客様とは取引がありません。現在は、知っている方から案件をもらい、少しずつ信頼を築き上げている段階です。

「今後、町内での関係を持てるようになると嬉しいですね。今は信用を積み重ねていく時期なので、短納期のお仕事のご依頼も多く受けています。技術力を活かして、お客様からの“こういう製品を、いつまでに作ってほしい”という多様な依頼に応えます。」と阿部さん。

︎ものづくりの面白さは、製品が応えてくれること

阿部さんの語るものづくりの魅力とは「自分の努力が製品として形になること」。しっかりと段取りを組み、丁寧に取り組めば、その結果は必ず製品に現れます。

「この分かりやすい因果関係が、ものづくりの大きな面白さですね。また、難しい技術や高い精度が求められる案件をやり遂げたときには、特別な達成感があります。」と阿部さん。

製品を通じてお客様が抱えている問題を解決し、感謝の言葉をもらえる瞬間も、ものづくりの醍醐味のひとつだといいます。

︎いただいた恩を、後輩や若い世代につないでいきたい

少子高齢化が進むなか、製造業もほかの業種と同様に人材不足の課題に直面しています。

「特にこの分野は、若い世代から注目されづらい現状にあると感じていますし、頼れる工場の数が減少しているという話をよく耳にします。だからこそ技術を磨き、これからも頼っていただける工場を築きたいと考えています。」

そして、これまで支えてくれた先輩や、お客様からの恩を、後輩や若い世代につないでいける存在になることも目標です。

「今後目指すのは、まず家族としっかり暮らしていける、安定した受注を得られる企業への成長。そして、かつて自分が助けられたように、次世代を助けられる企業になりたいですね。

先輩方がおっしゃっていたのは　“私もかつて助けられたことがあって、後輩を助けることでその恩を返している。だから君も後輩に返してあげてね“　という言葉です。これから製造業に意欲的に取り組みたい若い世代の力になれるように頑張りたいです。」

信用を積み重ねた先、地域の製造業がもっと盛り上がるように、次世代へとつなぐ未来を見据えていきます。