信用と技術を元手に　　　　　　　　　　　　　　　　応用力が強みの切削加工企業

設立は2004年。切削加工をおこなう「有限会社 ユーマテック」を53歳のときに起業したのが小松静雄さんです。

「切削方法を考えたり、機械にプログラミングをしたりと、製作するまでの準備作業を『段取り』といいます。当社は、この『段取り』が得意ですので、多種類の生産が可能です。」と小松さん。

「段取り」は、他社では受注したがらない理由になることもあるのだそう。この段取りに必要な応用力や、企業としての強み、そして小松さんの起業時の話などについて伺いました。

■ 応用力を活かして、職人として成長する

貴社での生産品、そして完成品を教えてください。

〈小松社長〉
「当社では切削加工で金属部品を作っています。当社で作られた部品は、機械メーカーさんのもとへ運ばれた後、工場で稼働する測定機器や、空気圧機器、光学機器産業用などの機械の内部へと組み立てられます。

当社の部品は、多品種・小ロット。毎月800種類ほどを少量生産しています。毎月定期的に同じ製品をご依頼されることもあれば、締め切りが近い特急生産をご依頼されることもあります。」

貴社の強みを教えてください。

〈小松社長〉
「やはり、ほかの企業さんがやりたがらない多品種・小ロット生産が得意なことですかね。

部品は工作機械で作るのですが、部品種類が変わるたびに、切削方法を自分達で考える必要があります。切削方法を機械へとプログラミングしたり、切削するためのツールを選んだりする準備作業は『段取り』と呼ばれ、知識や経験が必要です。当社のように多品種・小ロットであればあるほど、『段取り』の回数が多くなり、時間もかかりますので、やりたがらない企業も多いんです。

一方で、当社において、段取りは日常作業。知識や経験がかなり積み上がっていますので、段取りの作業で悩むことはあまりありません。多くの種類の製品を、スムーズに作り上げることができます。

お客様は「よその会社で、段取りができないと言われて、生産を断られた。」ということで、当社へご依頼されることもあります。また、他社で1日以上かかる加工でも、当社では半日でできた部品もありました。ほぼ3分の１の時間です。」

貴社では、求人募集もされています。どのような方が向いていますか？

〈小松社長〉
「応用力のある方でしょうか。工場で働くといえば、ライン作業がイメージされるものですが、当社はそのような働き方ではありません。先述の通り、これまでのノウハウをもとに1日のスケジュールを立てながら、試行錯誤をして『段取り』をしていくことが求められます。

そのため当社は、自分で考えて動きたい方にとって、働きやすい環境かと思います。『以前にこの方法でできたから、今度はこういうふうにしてみよう』『こうした方が、効率が良さそうだ』『この方がやりやすい』など、応用することに、やりがいを感じているスタッフもいますね。力仕事は少ないので、女性社員も活躍中です。

もしも、独立したいと考えている方がいたら、当社はうってつけかもしれません。当社のように１から10まで技術を身につけられる職場は、そうそう無いと思います。とはいえ、独立のために本当に会社を辞められたら、困っちゃいますけど（笑）。長く働いている方には、その方に適する仕事を用意したいと思っているので、できれば当社で、得意を活かして長く働いてもらいたいですね。

社員数が少ないからこそ、それぞれの社員が持つ会社への影響力は大きい。ひとりの力で会社が変わります。結果を出せば、しっかり認めてもらえます。」

■ 積み重ねた信用と技術に、後押しされた起業

小松さんが53歳の時、貴社を起業したのですね。

〈小松社長〉
「はじめのキャリアは、自動車整備工場。その後、ある金属切削加工工場へと転職し、そこで30年ほど働いて、起業・独立することになります。

実は、製造業は自分に合うと思っていませんでした。工場でじっとしているイメージがありましたから。車の修理っていうのは、工場で修理する時間も長いのですが、車が故障したところに出向いていましたので、外の空気が吸えて気分的に楽だったんです。

その後ご縁があって、ある金属切削加工工場へと転職。しかし、入社して1年後に社長が亡くなったことから、少人数のスタッフでは回らず、私が工場生産も営業も担当することになりました。右も左もわからない状態で、お客様のところへ出向いて、技術を叩きこんでもらう毎日でした。仕事をもらったら、すぐさま工場に帰って、自分で加工して納品。また営業して、自分で加工をして、また次の日に納品する繰り返しです。自分の性質に合っていたのか、会社の売上を最終的に10倍に伸ばすことができました。

当時は、今では考えられないほど納期が厳しく『明日の朝までに作ってほしい』と言われたものもあって、とても大変でした。翌日、何事もなかったかのように納品すると、お客様も認めてくれるんです。ほかのお客様にも紹介してもらえて、仕事が広がっていきました。」

そこから独立することになったのですね。

〈小松社長〉
「お客様のもとに独立報告に行った際『困ったら来い、俺がなんとかする』と言ってくれたお客様が、たくさんいらっしゃいました。当時お世話になったお客様は、すでに退職されていますが、その頃の評判を引き継いでくれて、今のお客様につながっています。

さらに独立当時、口座開設をするために銀行窓口に行った際、声をかけてくれたのが前職でお世話になった銀行の支店長。私が個人経営者にもかかわらず、すぐに口座を開いていただけました。その後も、閉鎖する工場をご紹介いただき、そこで使われなくなった機材購入のための融資もいただきました。

多くの方に仕事の頑張りを見てもらえていたのだと実感できた体験です。その方々に背中を押してもらえたおかげで、今があります。」

■ 技術で勝負できる業界

今後の展望はありますでしょうか？

〈小松社長〉
「希望的観測は誰でもできますが、現実的に未来を捉えられる人は、まずいないと思います。しかし、当社がやっているような仕事の内容は、おそらく無くならないでしょう。

一般消費者が購入するような製品は、価格競争が求められることも多いのですが、当社が携わっているような産業機器の部品、特に切削加工部品は、価格競争が生まれづらい市場となっています。

一定の需要があるとともに、品質も重要な切削加工部品。お客様のニーズに応えられる技術があれば、当社は求められる存在でいられるのです。これからも、お客様のご要望通りの製品を、安定的に生み出していきたいですね。」